2014年1月11日土曜日

1/10/14 【自殺念慮の生徒】

心理療法をしていると自殺念慮のあるクライアントに対応することがある。

抑うつ状態が強く、全てが逆境に感じられる。何もする気になれず、何をしても喜びを感じられない。

生徒「死にたいんじゃないの。あまりに辛すぎて、もう生きていたくないの。」

まさに生き地獄の心境。

先日、こんな生徒とセッションをしていた。
最初は泣きじゃくり、何も話したくない、私の話を聴きたくもない、何もしたくないと言っていた14歳の少女。

でも、本当は心の苦しみを誰かに吐露したかった。
声を詰まらせながら、自分のやりきれなさを、とつとつと訴え始めた。

「子ども時代が幸せな時期だという人は多いのに、あなたは違うのよね。
家庭は壊れていて、学校は居心地が悪い。
彼氏は気持ちを分かってくれないし、本音を話せる友達もいない。
マリファナを吸ってみても、気分は晴れない。
以前やってみて家出したら連れ戻されるのは分かっている。
全く状況のチョイスがないのよね」

生徒「そうなの、今の私にはチョイスがない。今は八方ふさがりの気分。 
こんな学校に来ないでバイトしたらお金が稼げる。そしたら早く自立できる。」

「高校卒業の資格がないと、その先の発展性が危ういのは分かっているから、高校は卒業したいのよね。でも、この学校は嫌。
 今の強烈な気持ちを描いてみたら?」

少女の涙は枯れそうになく、震える手でマーカーやオイル・パステルを掴み、ぐちゃぐちゃに描き殴り、紙は破れ、力尽きた。

「どうする?」

生徒「ここに居続けるしか今の私にはチョイスがない。明日も学校に来る。」

セッション室を出ていく少女の背中は、重荷を一度降ろしたような清々しさを感じた。

私は思春期に、この少女と同じような気持ちを味わっていた。 

そして、その自殺念慮の炎を消すきっかけを作ってくれたのは、当時私が唯一信頼できる大人、スクール・カウンセラーとの心の絆だった。


 

『一本の絆』



誰でも一度くらい

生きていたくなくなっても不思議はない。

そんな時、そこで留まるか、逝き急いでしまうかは、

ほんの糸一本くらいの違いしかない



15歳の凍てつく日曜日の午後

もう生きていたくないほど絶望し一本だけ電話を掛けてから

そのまま高いビルから飛び降りてしまおうと受話器を取った



先生は私の電話を受けて

「どうせ死ぬのなら今日でも明日でも変わりないでしょう。

だったら、明日、学校に来て私に会いに来て約束よ」

先生は慌てふためくこともなく、平然とこう言い放って
送話器を置いた



翌日、先生に会うためだけに制服を着て重い心を引きづって

なんとか学校に辿りついた

その頃には、これ以上の重労働は考えられなくなっていた

自らの命を断つほどの意気も萎えていた



あの時、脆く崩れかけた私の命を向こう側でしっかりと、

でも、平静に握り締めてくれた感触が

消えかけていた私の命の火をもう一度灯す勇気につながった



一本の電話が心と心を結ぶ絆となって

命綱となってくれた



今度は私が差し伸べてくる小さな手の反対側で

しっかりと握り締めよう

一本の絆を心の命綱を



© Eiko Emily Uehara 2012, All Rights Reserved.


15歳あの時、命を絶っていたら今の自分は存在しない。

心理療法家となり、同じような痛みに喘ぐ生徒と心を交わすことができるようになった。苦しみながら何とか思春期を生き抜いた自分へのご褒美のような至福の時に感じられる。

生きてきてよかった。


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